よってたかって恋ですか?


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イエスの知り合いで、ブッダも知っているお友達、
それは愛らしいお嬢さんからのメールが届いたと聞いて、
ちょっぴり最聖らしからぬ、
もとえ、大人げないカラーの感情が
如来様の胸のうちにて少なからず頭をもたげてしまったのは、
イエスのことが何にも代えがたいほど大好きで 大切な存在だったから。
そんな彼の気持ちを攫われそうなという光景を目にし、
怖い想いをかつて味わったことが、
ついつい思い出されてしまったのだけれども。
だがだが、それとて ちらっとよぎった程度のもの。
すぐにも“そういう浅慮はいかん”と思い直した反省こそが滲んでのこと、
結果として 打ち沈んで見えたブッダだったよで。
単なる嫉妬じゃあなくて、
もうちょっと込み入った感情の錯綜だったのに、
ああきっと見たままに誤解されただろうなと、言い訳もしないでいたところ、
大雑把なイエスにしては丁寧にして鋭くも
正確なところというもの、きちんと把握してくれており。(失敬な

 『だってブッダってば、
  すぐさま困ったようなお顔になったじゃない。』

焼き餅からの不興なら、もう少し強気な気色も滲む。
拗ねてるみたいな、それでいて甘えるようなお顔になると、
すっぱり言い切った彼なのへ、

 『〜〜〜っ。////////』

そこへも感動しちゃったブッダ様。
宥めるように抱きしめられたそのままで、
くぅんと甘えておねだりし、仲直りのキスなぞ堪能したお二人だったが。

 「それで? どういうメールだったの?」

会話のネタとしてイエスから持ち出したくらいだもの、
意外な人から届いたという事実だけじゃなく、
内容もブッダへ話しておきたかったからに違いない。
そうと思えばと納得した上で、
あらためてこちらから訊いてみたところ、

 「ああ、うん。それがね。」

雰囲気のいい 甘い口づけの余韻に浸っていたからか、
そんな瑣末なことと
もはやどうでもよくなりかかっていたらしいイエス様。
さらさらと手触りも最高な、螺髪が解けたブッダの髪を、
愛しいことよとその手へ掬っては 優しく梳きつつ応じてくれて。

 「ふみちゃんたちの通う女学園も秋の学園祭が近いらしくてね。
  特に、来月の文化祭の準備に忙しいらしいのだけど。」

 「うん。」

そういや そういう時期だよねと、
つい先程も、
平日で まだ昼前だったというに
商店街付近で見かけた女子高生たちを思い出す。
彼女らもそういう準備があってのこと、
何か買い出しにと校外まで出て来ていたのかも知れない。
そんな隙を突くように、ん〜っとおでこに頬ずりされて、
や〜んvvと苦笑をしつつも応じておれば、

 「今年も引き継いだらしい執行部ってところに
  OGの皆さんが
  同じリクエストを一杯送って来たそうで。」

 「………え?」

そんなイエスの言い回しを聞き、
さすがは聡明な 仏界の“叡知の真珠”様で、
それだけで何ぁんとなく予想がついたことがあったようでございまし。
螺髪がほどけているほどのゆるみよう、
うっとり・ほわんと蕩けるようなお顔でいたものが、
おやと ちょっぴりピントが冴えて来つつあり。
そんなハニーだとは気づきもせぬまま、
イエスの側は むしろ楽しげな語調となっていて、

 「なんと、
  ブッダが焼いたあのカップケーキが
  どうしても忘れられないっていうリクエストが
  引っ切りなしに届いてるんだってvv」

 「ありゃまあ…。」

イエスにしてみれば、
愛する伴侶様の手になるケーキがそうまで皆々様に愛されているのが
我が誉れのようで嬉しくてしょうがないのだろうが、

 “えっとぉ…。///////”

そもそも、そのケーキが発端で大人げない嫉妬を抱えてしまい、
イエスを困らせたほど取り乱しちゃったのだのにと。
ブッダの側にしてみれば、
お嬢さんたちの名前へちらりと感じかかったのと同じほど、
まだまだ“因縁の”という冠詞がついて回る代物だったのだし。
それに、そんなリクエストの話を、
そこいらでお顔を合わせたからついでに…という格好ではなく、
わざわざメールして来るということは?

 「もしかして、あのケーキを?」

自分から皆まで言ってしまうと
イエスの気性上、おお OKなのだとそのまま解釈されかねないかもと。
そこは賢明にも慎重になって語尾を濁せば、(う〜ん・苦笑)

 「そうなんだ。
  えっと、復活? 複製?
  じゃあなくて、あ・そうそう“復刻”したいって。」

 「…そんな大層な。」

よほどの銘菓を何十年も経ってから懐かしむならともかく、
ほんの半年ほど前の話なのにと、
その言いようへはブッダも苦笑しきりで。
それと同時に、

 “……。///////”

先んじて警戒しちゃった自分の慎重さが、仄かにほろ苦かったりもして。
バカンス中に振り回されたからこその、
様々な蓄積あっての正当な対処、であるはずが、
イエスの無邪気さ屈託のなさのほうこそ、正しいのだと感じられてやまず。

 “これって どっちが地上慣れしたってことだろか。”

そんな風な疑問まで浮かんだものの、
それもこれも今はさておくとして。

 「もしかしてその復刻とやら、学園祭の中でやっちゃうってこと?」

ここまで聞いといてまだ判らないというのも白々しいかと、
それでもまだ“?”つき、
しかも…こちらは故意ではないながら、
懐ろの中から見上げるという甘えモードで訊いたところ。
そりゃあ嬉しそうに目を見張り、口許もふふーとほころばせ、
ぱあっと輝かんばかりの笑顔になったヨシュア様、

 「その通りっ!」

パンパカパンというファンファーレの代わり、
その額へ巡らせた冠の紅バラがぽぽんっと弾けるように咲いて、
どれほど嬉しい企画かを、何も言い添えられなくとも感じさせる喜びよう。

 「それでね、ブッダにあのケーキのレシピを教えてほしいんだって。」
 「…レシピかぁ。」

実は“また焼いてほしい”とかいう話だったらどうしようと、
そこまで警戒しておいでだった、
さすが周到、
さすが…苦しみとなる前にどんな煩悩もお捨てなさいと
説いておいでの釈迦牟尼様。(おいおい)

 “ああでも、そういえば…。”

前回に依頼されたおりは、
予餞会という卒業生向けのイベントにて、
卒業してゆく先輩たちのおねだりを叶えるという趣旨のそれだったから、
ブッダが手づから作ったものというところに意味があったのであり。
執行部という部署にいるなら、
関係筋への配慮というものへも
一般の生徒さんたちより触れる機会も多かろうから。
学園祭で披露したいという企画へまで
ブッダ自身を引っ張り出そうとするような、
要領のいい、悪く言って“図々しい”子たちのはずはない。

 “…なんてことを
  いちいち ごしょごしょ考えないんだろうな、イエスは。”

それは素直に それは無邪気に受け止めて、
そのまま笑ったり驚いたり。
警戒心の薄さから困った事態も大きに招くが、
何とか出来ても出来なくても、
新しい経験としてカウントしちゃえる人であり。

 “罪を認めて許しを請う人、
  誰でも彼でも受け入れる精神って、
  こういうことへも波及するものなんだろか…。”

またぞろ、ややこしいこと考えそうになり。
いやいやいや、今はそれは無しでしょうよと、
自分で自分にこっそりとNGを出しつつ、

 「でも あのケーキって、
  確かどっかのお料理サイトのを参考にしたんだけどもなぁ。」

そういうレシピなのに、
ブッダ謹製とか持ち上げられちゃうのは ちょっと心外と。
今度は彼なりの慎み深さからの戸惑いが出たものか、
それでもいいのかなぁと、
その胸元へと凭れたまんまのイエスを見上げ、
かっくりこと小首を傾げるブッダだったものだから。

 「〜〜〜〜。////////」
 「イエス?」

それ以上はなかろう至近の間近、
いかにも恋人同士でございますと寄り添う格好で、
懐ろにおいでの如来様のお顔へ視線を据えて。
ふっと何の感情も乗っけない素の顔になってから、
口ひげの下、感情豊かな口許がうにむにと噛みしめられ、
それでもこらえ切れないらしいのは、含羞みからの笑みだろか。
ややもすると困惑しつつ、それでも押さえ切れない笑みに、
その口許が ぐぐいと横へ引き伸ばされてゆくのが

 “わぁあ、そんな可愛い顔するの無し…。/////”

目許や口許がくっきりしているという点でなら、
イケメン大国インド出身のブッダもまた
結構な美丈夫に違いないのだけれど。
イスラエル生まれのイエスのそれは、
彫の深さのみならず、造作そのものが やや鋭角的であるものだから。
凛と清冽、もしくは まろやかで風雅な印象のする
基本、静謐な仏界が出自のブッダからすれば、
明王などがまとうよな、
屈強なというムキムキと力強いそれとは一線を画すものの、
それでも きりりと精悍で男らしい印象のする、
惚れ惚れするよな男ぶりだというに。
そんな男性がポッと含羞み、
それを下手に誤魔化すことなく、
懸命にこらえている思わぬ可愛さと言ったら、

 “もうもうもうっ!///////”

その朴訥さがこういう格好でだだ漏れになるなんてずるいと。
ドキリという拍動が強く胸を叩いたほどのときめきを、
思わぬ拍子、加えてこうまでの至近からお見舞いされてしまった如来様。
もうもうもうとの含羞み再び、
そちらもまた、
ぽってりとした口許をうにむにとたわませてしまったのだけれども。
元はと言やあ、ご自分の魅惑的な甘えようが原因だというのに、
そこへは気づきもせぬまま、狡いぞ・もうもう もないもんで。(笑)

 こういう、キリがないのって何て言うんでしたっけね。
 メビウスの輪? クラインのつぼ? 永久機関?(笑)

 「…ぶっだ?」
 「えっとうっと、あのその…。////////」

お互いがお互いへ、
視線が外せぬまま含羞み続けていたものの、

 「そうだ、お腹空いてないの? イエス。」

そうだよ、それでと急いで帰って来たんじゃなかったか。
するとイエスも我に返ったようで、

 「あ、空いてる。さっきムースケーキも食べたけど、」

却って食欲つつかれちゃったみたいで、と、
今度は それは朗らかに笑ってくれたので。
何ともムーディだった空気も一変。
じゃあさっそく用意しなくちゃねと、
ブッダも気を取り直し、
えいっと髪を螺髪へ戻してしまう、切り替えの素早さよ。
勿論のこと、大元の話も忘れちゃいません。

 「どのくらいを焼くのかは知らないけれど、
  あの時に作ったのは、ウチのいつものケーキと同じのだったから。」

基本の割合での分量と焼くまでの手順、
レポート用紙へ書き起こしておくねとにっこり笑って約束し、

 「さて、私たちのお腹もお世話しなくちゃね。」

充電態勢のまんま、
つまりはキッチンスペース手前に座り込んで、
あーだこーだを展開していたお二人だったので。
まずはとイエスが立ち上がり、
さあと手を差し伸べてくれるのへ、
ブッダが“うんvv”と頷き、素直に掴まるのも一種のご愛嬌。
清かな風に乗り、どこからか届くのは、
この時期の爽やかな空気に相応しい、
金木犀の花が奏でる 華やかで甘い香りだったけれど。
彼らにとってはお互いへと感じる甘やかな匂いと感慨こそ、
それさえ凌駕するほどに魅惑的な香りであるようで。
秋には秋の睦まじさに ほこりとし、
涼しくなろうが肌寒くなろうが、あんまり関係ないお二人みたいです。



  お題 8 『眸が合うと微笑うキミ』






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  *あのケーキのレシピを教えてという、ただそれだけのことへさえ、
   こうまで動揺したり、はたまた甘く睦み合ったりしちゃう、
   性懲りもない、もとえ、
   まだまだ初々しくも甘甘なお二人であるようです。(笑)
   次の章では ちょっぴり突発事が…?

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